要点
- 米財務省は、カンボジアで詐欺の拠点を動かしていたとされる Prince Group について、関係者4人と41社に3回目の制裁を科した。
- 財務省によると、拠点では人身売買などで連れてこられた人が、世界中の人をだますよう強いられている。手口は暗号資産の投資詐欺やロマンス詐欺だ。
- 日本でも、SNS で始まる投資詐欺とロマンス詐欺の被害は、2025年の1年間で合わせて1,800億円を超えた。
何が起きたか
米財務省の OFAC(外国資産管理局。制裁を担当する部署)は、米国時間の2026年11月5日、46の個人と会社を制裁の対象にした。このうち45は Prince Group の犯罪組織に関わる4人と41社だ。残りの1人は、マダガスカルに拠点を置いた別の詐欺網の幹部とされるマレーシア国籍の人物で、OFAC はアメリカ人をだました疑いを挙げている。
OFAC の発表によると、Prince Group は暗号資産の投資詐欺やロマンス詐欺などで、アメリカ人を含む世界中の人から金をだまし取ってきた。その多くは東南アジアの大きな施設(詐欺拠点)から行われた。財務省は、そこでは「trafficked and coerced workers」(人身売買され、強制された働き手)が詐欺をさせられていると書いている。
今回の対象には、組織の幹部とされる人物や、その助手とされる人物が入っている。香港や英領ヴァージン諸島(BVI)の会社、カンボジア、シンガポール、マレーシア、モーリシャスの会社も入っている。財務省によると、今回の対象になった人物は、これまでの制裁を逃れる動きに関わった。すでに制裁を受けた幹部と一緒に、またはその幹部に代わって、財産を移したり会社を持ったりしたという。今回の制裁は、それをふさぐねらいだ。
制裁を受けると、米国の手の届く範囲にある資産は凍結される。米国の人や会社は、取引を原則として禁じられる。
日本の利用者への影響
今回の発表には、日本に関わる点が1つある。財務省によると、6月に制裁を受けた幹部が、東京の「マンション」の持ち主を、制裁の対象になった妻に移した。この建物そのものは、今回の制裁の対象には挙がっていない。6月の制裁について、財務省は日本の警察庁と緊密に連携したと発表している。
日本の被害も大きい。警察庁の確定値によると、2025年の SNS型投資詐欺は9,523件、被害額は約1,288億円だった。SNS型ロマンス詐欺は5,645件、約546億円だった。前の年と比べて、投資詐欺は件数が48.5%、被害額が47.9%増えた。ロマンス詐欺は件数が47.6%、被害額が36.3%増えた。
日本人が加担させられる側に回る事件も起きている。報道によると、カンボジアのポイペトにあった拠点で、警察官を名乗る特殊詐欺をしたとして日本人29人が日本に移され、2025年8月に愛知県警に逮捕された。2026年にも、カンボジアで日本人が拘束されたと報じられている。
今すぐやること
- SNS や広告で知り合った相手から、投資や暗号資産の話が出たら、詐欺を疑う。「必ずもうかる」「自分だけの特別な情報」は、典型的な誘い文句だ。
- 有名人や知らない「先生」が勧める LINE のグループや、投資アプリへの招待には乗らない。アプリやサイトが本物かは、金融庁の登録業者の一覧で確かめる。
- 会ったことのない恋人や友人から、お金や暗号資産を送るよう頼まれたら、送る前に家族か警察(#9110)に相談する。
- 「海外で短期間に高収入」「簡単な作業」といった求人には応じない。外務省や在外公館は、こうした誘いで渡航した若者が軟禁され、詐欺に加担させられた例があるとして注意を呼びかけている。
- 警察官を名乗る相手から、ビデオ通話や SNS で「捜査のため」と送金を求められても、一度電話を切る。そのうえで、警察の代表番号にかけ直して確かめる。
背景
米国の Prince Group への制裁は、これで3回目になる。
- 2025年10月14日: OFAC は、Prince Group を国際的な犯罪組織として、146の個人と会社に制裁を科した。英国と足並みをそろえた。同じ日に、トップの Chen Zhi 氏(Prince Group 会長として公に活動してきた人物)に対する起訴状が、米ニューヨーク東部地区の連邦地裁で公開された。米司法省は、約12万7,271ビットコイン(当時の値で約150億ドル)の没収を求める手続きを起こした。
- 2026年6月23日: OFAC は幹部ら9人と26社を加えた。このとき、日本の警察庁と連携したとしている。
- 2026年11月5日: 今回の4人と41社。
The Record は、Prince Group の CEO が逮捕され、中国に引き渡されたと伝えている。今どこにいて、どういう立場にあるのかは分かっていない。Prince Group は、これまでの疑いを否定している。
財務省は2025年10月の発表で、米国の推計として、2024年にアメリカ人が東南アジアの詐欺拠点に奪われた額は少なくとも100億ドルで、前の年より66%増えたと書いた。拠点の摘発が進んでも、場所を変えて続いているのが実情だ。財務省は今回、アフリカを拠点とする詐欺師の網を取り仕切ってアメリカ人をだましたとして、マレーシア国籍の1人も同じ日に制裁の対象にした。
技術者向けの詳細
- 根拠となる大統領令: Prince Group の関係者は E.O. 13581(国際的な犯罪組織。E.O. 13863 で改正)。マダガスカルの詐欺網の幹部は E.O. 13694(悪質なサイバー活動)。どちらも E.O. 14390(2026年3月6日。米国民を狙うサイバー犯罪と詐欺への対策)にもとづく動きとされる。
- 名前と識別の情報(パスポートの番号・会社の登録番号など)は、OFAC の SDN リスト(制裁対象の一覧)に載っている。取引先を確かめる仕組みがある組織は、リストの更新を取り込む。
- OFAC の「50%ルール」: 制裁の対象が、1者でも合わせてでも50%以上を持つ会社は、一覧に名前がなくても同じ扱いになる。
- 財務省によると、資金は次の経路で動かされていた。ペーパーカンパニー、海外の持株会社、名義だけの取締役、会社の設立代行業者、暗号資産の取引。
- 財務省は、マダガスカルの詐欺網がアメリカ人から40万ドル相当を超える額をだまし取ったとしている。
- 関連の動き: FinCEN(米財務省の金融犯罪の部署)は2025年10月、カンボジアの Huione Group を米国の金融システムから締め出す最終規則を出した。FinCEN によると、Huione Group は2021年8月から2025年1月までに、少なくとも40億ドルの不正な資金の洗浄に関わった。
- 米国の被害の届け出先は FBI の IC3(ic3.gov)。日本では警察の相談専用電話 #9110 か、最寄りの警察署に相談する。

