要点
- Ford が、車のデータを守り、何を共有するかを持ち主に選ばせるとする「privacy promise(プライバシーの約束)」を、2026年11月2日(米国時間)に発表した。
- その直前の10月29日、GM は運転データを保険のために売っていたとされる件で、36の州などの司法長官と2億2,000万ドルで和解している。
- Ford は「運転のしかたのデータはデータブローカーに渡さない」と言うが、自社のプライバシー通知には、位置情報を広告のために「売る」「共有する」と書いた表もある。
何が起きたか
TechCrunch の取材に、Ford の最高プライバシー責任者 Kristin Jones 氏が答えた。それによると、Ford は新しいサイトで、どんなデータを集め、何に使い、どう止められるかを説明する。TechCrunch によると、データの扱いを選ぶ設定は以前からあり、今回の狙いはその説明をわかりやすくすることにある。Ford の専用サイトの本文は、この記事の時点では確かめられなかった。
Jones 氏が約束したことは主に次のとおり。
- 運転のしかたのデータを、データブローカー(個人データを集めて売る業者)に渡さない。
- データでお金を稼ぐのではなく、持ち主の役に立つサービスに使う。
Ford が2025年に自社サイトに載せた Jones 氏へのインタビュー記事でも、Jones 氏は「コネクテッドカーのデータは売らない」「Ford が保険会社に運転のデータを渡すことはない」と述べていた。
一方、Ford が今公開しているプライバシー通知(コネクテッドカーの節は2026年7月1日から有効)を読むと、次のことが分かる。
- 集めるデータは広い。速度、アクセル・ブレーキ・ハンドルの操作、正確な位置、カメラの画像、音声コマンド、聞いている曲の名前まで入る。
- 車のデータは、研究開発や、持ち主に合わせた商品の案内、法律で許される範囲での宣伝にも使うとしている。
- 位置情報の設定を切っていても、差し押さえ(ローンが払えないときの車の回収)や法の手続き、緊急のときには位置を集めることがあるとしている。
- カリフォルニア州向けの表では、「位置情報」を「売る」「共有する」の両方で「はい」とし、目的を「宣伝と広告」としている。
- 工場で付けた装備の情報を、車台番号とひもづけて保険会社や中古車オークションの会社などに「売った」ことがあるとも書いている。
つまり、Ford が約束しているのは主に「運転のしかた」のデータの扱いだ。位置情報や装備の情報まで外に出さないとは言っていない。外部の監査を受けるか、約束を破ったらどうなるかも、取材記事と通知からは読み取れない。
日本の利用者への影響
Ford は2016年に日本での新車販売をやめており、日本で走っている Ford 車は多くない。今回の約束が米国の外にも当てはまるかは確かめられなかった。
ただ、同じ問題は日本の車にもある。トヨタは2023年5月、クラウドの設定ミスで、T-Connect などの契約者約215万人の車の位置情報などが、外から見られる状態だったと発表した。トヨタは、このデータだけでは人を特定できず、二次被害も確認していないとしている。今の車は、日本でも走るたびにデータを送っている。
今すぐやること
- 車の画面の「設定」で、データの共有やコネクテッドサービスの項目を見る。何を送る設定になっているか、一度確かめる。
- メーカーのアプリや会員サイトで、契約しているサービスを確かめる。トヨタなら、Web の My TOYOTA で T-Connect の契約情報を確認できる。スマホ向けには My TOYOTA+ アプリもある。
- 保険の割引のために運転を記録するアプリや機器を使っているなら、その規約で、どのデータが誰に渡るかを確かめる。Ford は、保険会社の中には Ford 以外のスマホアプリのデータから運転のしかたを推し量るところがある、と書いている。
- 車を売る・手放す・レンタカーを返すときは、車の初期化(工場出荷の状態に戻す)をする。Ford もこれを勧めている。
- 共有を止めると、ナビや救助の呼び出しなどが使えなくなることがある。何をあきらめるかを分かった上で選ぶ。
背景
和解の結果、GM はこれから、運転や位置のデータを集める前と外に渡す前に、本人のはっきりした同意を取らなければならない。ワシントン州の司法長官の発表によると、問題になったのは「Smart Driver」という仕組みだ。とくに重く見られたのは、37万人を超える人のアプリに「登録されていない」と出ていたのに、実際には登録されていたとされる点だ。集められたのは急ブレーキ、急加速、速度の出しすぎといった記録で、保険会社はそれを保険料の計算に使ったとされる。発表は、GM がこの記録をデータブローカーに売り、ブローカーが保険会社に売ったとしている。対象の期間は2016年から2024年で、人数は何百万人にのぼる。発表によると、GM は The New York Times がこの件を報じたあとに Smart Driver をやめた。
Ford も無傷ではない。カリフォルニア州のプライバシー保護機関は2026年3月、データの販売を止めたいという申し出にメールの確認を求めて止めにくくしたとして、Ford に37万5,703ドルの罰金を科した。
技術者向けの詳細
- Ford の通知が挙げるコネクテッドカーのデータの区分: Vehicle Data(VIN、モデムと SIM の ID、診断コード)、Driving Data(速度、操作、運転支援の作動、エアバッグなど)、Vehicle Location(緯度・経度・高度・充電した場所)、Audio/Visual、Media Analytics。これらは VIN やほかの識別子にひもづくことがあるとしている
- 止め方(Ford の通知による): 車の画面の設定(Share Media Analytics など)、モデムの停止、アプリの「ガレージ」から VIN を消す(アプリを消すだけでは共有は止まらない)、MASTER/FACTORY RESET
- ウェブ経由の販売・広告の停止: Cookie Settings、Global Privacy Control、申し出のフォーム
- ソフトウェアの更新は自動で入ることがあり、車に残したデータが消えることがあると Ford は書いている
- GM の和解(2026年10月29日): 36の司法長官(コロンビア特別区を含む)。ワシントン州とオレゴン州が主導。ワシントン州の受け取りは1,230万ドル。ほかの条件として、販売店での教育と監督、社内と社外の両方によるプライバシーの仕組みの評価、運転データを集める量をしぼることが入っている
- カリフォルニア州の Ford への命令: opt-out の手順を少なくすること、ウェブの追跡技術の監査、Global Privacy Control への対応
- トヨタの件(2023年5月12日発表): 対象は T-Connect/G-Link/G-Link Lite/G-BOOK。漏れた可能性のあるデータは車載端末の ID、車台番号、位置情報、時刻。外から見られた期間は2013年11月6日〜2023年4月17日



