要点
- GMO インターネットグループへの不正アクセスで、総務省が通信事業者に「攻撃者のサイトにつながらないようにしてほしい」と求めたと報じられた。
- 接続の遮断(ブロッキング)は、通信事業者が利用者みんなの接続先を確かめることになるので、憲法が守る「通信の秘密」とぶつかるおそれがある。
- NTT の島田明社長は、どんなときに遮断してよいかを前もって法律や指針で決めておくよう、政府に求める考えを示した。
何が起きたか
発端は、GMO インターネットのサーバーを借りるサービス「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスだ。GMO インターネットグループの発表によると、10月20日に、一部の利用者のサーバーに第三者が不正なプログラムを置いたことが分かった。サーバー内の情報が外に持ち出され、証券や FX の口座で身に覚えのない取引があったという報告も、一部の利用者から寄せられた。
攻撃者とみられる者は、お金を求め、応じなければ情報を公開すると脅した。GMO は支払わないと表明している。その後、利用者の情報だとされるものがネット上のサイトで公開された。GMO は、このサイトを開いた人の情報も攻撃者に取られたことを確かめた。サイトを開いて起きた被害について GMO は責任を負えないとし、「アクセスは絶対にお控えください」と呼びかけている。
GMO は10月24日、政府の機関に「能動的サイバー防御」の適用を求めた。能動的サイバー防御とは、国が攻撃者のサーバーなどを突き止め、被害が広がる前に無力化する仕組みだ。
日本経済新聞と読売新聞の報道によると、総務省は10月27日付の文書で、電気通信事業者協会など通信分野の業界団体に、攻撃者側のサイトへの接続を遮断するよう求めた。読売新聞は、総務省が要請文の中で、情報を悪用した二次被害が広がるおそれを理由に挙げたと報じている。
ところが GMO の発表では、10月28日の午前4時ごろ(日本時間)に、関係する事業者との連携で攻撃者のサイトのドメイン(ネット上の住所)が止まった。日経は、サイトが見られなくなったので、遮断は結局行われなかったもようだと伝えている。
藤井比早之総務相は10月30日の会見で、要請したのかを聞かれ、進行中の案件だとして答えを控えた。11月4日の決算会見で、NTT の島田社長は要請への対応についてのコメントを控えた。そのうえで、利用者を守ることと通信の秘密を両立させる必要があると述べた。刑法の「緊急避難」の整理を含め、法制化を政府に求める考えだと報じられている(産経新聞の配信記事)。
日本の利用者への影響
今回、遮断は行われなかったとみられる。ただ、もし行われていたら、日本の多くのネット利用者に関わる話になっていた。
ブロッキングでは、通信事業者が、利用者がどこにつながろうとしているかを確かめ、特定のサイトだけを止める。止めるサイトを見ない人の通信も、確かめる対象になる。これが通信の秘密とぶつかるといわれるのはこのためだ。
児童ポルノのサイトは、刑法の「緊急避難」(差し迫った害を避けるための、やむを得ない行為)の考え方で遮断されてきた。海賊版サイトや違法なオンラインカジノでは、これまでの議論で遮断が認められていない。今回の要請が何に基づいていたのかは公表されていない。
国が攻撃者のサイトを止めさせる例が今後も出るなら、どんなときに、誰が決め、あとで誰が確かめるのかが利用者には大事になる。報道によると、島田社長は、遮断が認められる事案を想定して、前もってガイドラインを作る必要があると述べた。
今すぐやること
- 攻撃者が情報を出したとされるサイトは開かない。リンクを広めない。GMO は、開いた人の情報も取られたとして、そう呼びかけている。
- すでに開いてしまったなら、ウイルス対策ソフトでパソコンを丸ごと調べる。これも GMO の勧めだ。
- お名前.com デスクトップクラウドを使っていた人は、GMO の「重要なお知らせ」で最新の案内を確かめる。証券や FX の口座に身に覚えのない取引がないかも見る。
- この件をきっかけにしたフィッシング(偽のメールや SMS)に気をつける。GMO もそう呼びかけている。
- 政府が遮断のルールをどう決めるかを見ておく。通信の秘密に関わる話なので、意見公募があれば中身を確かめる。
背景
能動的サイバー防御の法律(サイバー対処能力強化法と、関係する法律を直す整備法)は2025年にできた。内閣府によると、このうち警察や自衛隊が攻撃者のサーバーなどに入って無力化する「アクセス・無害化措置」などの規定が、2026年10月1日に始まった。国が通信の情報を使う部分は、まだ始まっていない。また、通信事業者が利用者の接続を遮断する仕組みが、この法律に含まれているかは確かめられなかった。
遮断をめぐっては、2018年に政府が海賊版サイト「漫画村」などの遮断を求めた「緊急対策」が大きな議論になった。2026年7月には、総務省の有識者会議が、違法なオンラインカジノへの遮断を「排除しない」とする報告書をまとめたと報じられた。その中でも、より権利を狭めないほかの手を尽くしたかを確かめるべきだとされている。
技術者向けの詳細
- 時系列(日本時間、GMO の発表と報道による)
- 10月20日: お名前.com デスクトップクラウドで不正なプログラムの設置を確認
- 10月21日 4時: 全プランのサーバーを順に停止
- 10月22日: 警察に相談
- 10月24日: 政府の機関に能動的サイバー防御の適用を要請(GMO の第4報)
- 10月27日: 総務省が業界団体に文書で遮断を要請(報道による。要請文は非公表)
- 10月28日 4時ごろ: 攻撃者のサイトとミラーのドメインが停止(GMO の第13報)
- 10月30日: 総務相が会見で回答を控える
- 11月4日: NTT の決算会見で島田社長が法制化を求める考えを示す(産経新聞の配信)
- 遮断の要請先とされる団体: 電気通信事業者協会など通信分野の4つの業界団体(読売新聞)。日本インターネットプロバイダー協会も含まれると報じられている
- ブロッキングの方式は要請の報道では明らかでない
- 児童ポルノの遮断は、一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会が作る対象リストに基づいて、2011年から行われている
- 施行状況: アクセス・無害化措置と官民連携の規定は2026年10月1日に施行(内閣府)。通信情報の利用の規定は未施行で、報道によると2027年秋に施行される予定
- 有識者会議の報告書: 「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会」(総務省)
