要点
- 動画の背景に入るほとんど聞こえない飛行機の音から、撮った場所を数百フィート(100 m 前後)の範囲まで割り出せる、という実演が YouTube に公開された。
- 音の高さの変わり方(ドップラー効果)を、誰でも見られる飛行機の位置の記録と照らし合わせる方法で、映像に目印が何もなくても使えるとされる。
- 編集ソフトで低い音を切るだけでは消えないという検証もあり、自宅などで撮った動画を出す人は、音の扱いを見直したい。
何が起きたか
YouTube の投稿者 colsto が「I discovered a sound that leaks your exact location (and it’s everywhere)」という動画を公開した。開発者の Simon Willison が11月3日に自分のブログで紹介し、「Genius piece of OSINT」(OSINT は、公開されている情報から調べ上げること)と評した。
この方法には柱が2つある。1つ目はドップラー効果だ。救急車のサイレンと同じで、飛行機の音は近づくと高く、遠ざかると低く聞こえる。高さがどう変わったかを見れば、飛行機の速さや、録音した場所にどこまで近づいたかが推し量れる。2つ目は ADS-B(飛行機が自分の位置や高さを電波で発信する仕組み)だ。その記録は公開のサイトで後から見られる。
録音から読み取った音の変わり方と、記録に残る飛行機の動きが合う場所を探せば、「その時刻にその飛行機をその距離で聞ける地点」が絞り込める。動画では、景色に手がかりのない防犯カメラの録画を例に、アメリカ本土の飛行記録と照らし合わせて、数百フィートの範囲まで割り出せたとしている。動画の説明欄によると、コードや道具は公開していない。
この主張を、別の開発者が GitHub の cbonitz/doppler-experiments で確かめている。作り物のデータでの検証で、実際の動画の音は使っていない。それでも、物理の考え方は正しく、プロペラの音から速さと距離を推し量る研究は1992年から発表されているという。風や気温、飛行記録のずれを入れた条件では、6つの試しのうち5つで 85〜465 m、残る1つで 830 m の範囲に絞り込めた。
日本の利用者への影響
動画で示されたのはアメリカ本土の飛行記録を使った例で、日本で同じように使えるかは確かめられていない。
ただし、考え方そのものは国を選ばない。日本の上空でも飛行機は飛んでおり、位置の記録を見られるサービスもある。音が手がかりになるという点は、日本で動画を上げる人にも関係する。
検証からは、使える場面が限られることも分かっている。音を拾える近さをプロペラ機が通ること、その機体が ADS-B で記録に残っていること、録った時刻がある程度分かることが要る。時刻が1時間の幅でしか分からないと、正しい飛行機を選べなかったという。1機だけの音では、場所の候補が左右や前後にずれやすい。
今すぐやること
- 自宅や実家で撮った動画は、音を差し替えるか消してから出す。 背景の音をまるごと BGM に置き換えるのがいちばん確実だ。
- 「低い音を切る」編集だけで安心しない。 cbonitz の検証では、低い音を削る処理や、電話くらいの音質に落とす処理でも、音の手がかりは多く残った。
- 撮った時刻をすぐには知らせない。 この方法は時刻が分かるほど強くなる。生配信や「今ここ」の投稿は時刻がそのまま分かるので、自宅からの配信は特に気をつける。
- ほかの手がかりもいっしょに見直す。 窓の外の景色、チャイムや防災無線の音、写真の位置情報(スマホが写真に自動で記録する場所のデータ)も、場所を割り出す材料になる。
背景
音から録った場所や時刻を割り出す話は、これが初めてではない。よく知られているのは、コンセントの電気のかすかな「ブーン」という音を使う方法だ。電気の周波数はわずかに揺れ続けており、その揺れを記録と照らし合わせて、録音の時刻を確かめる研究がある。
今回の実演が目を引くのは、どこにでも入りうる音が、場所を示す手がかりになると示した点だ。コードを伏せたことの意味について、cbonitz の見方は厳しい。動画の説明が詳しいので、その内容を AI のコーディング支援に伝えれば再現できてしまい、伏せても足止めにしかならないという。いま悪用を難しくしているのは、むしろ過去の飛行記録を集める手間と、実際の録音でこの方法がうまく働くかどうかの方だとみている。
技術者向けの詳細
- 手がかり: プロペラ機の音の基本の高さ(およそ 50〜150 Hz)と、その倍音。ドップラーの曲線から速さと最も近づいた距離を推し量り、ADS-B の過去の航跡と合わせる。ジェット機の航跡は外している(cbonitz の再現による)。
- 精度(cbonitz、作り物のデータ): 誤差なしでおよそ 4 m。風・気温・気圧高度のずれ・ADS-B の雑音・2秒おきの記録を入れると、6つ中5つで 85〜465 m、1つで 830 m。時刻が ±1分で分かる場合は、6つ中5つで正しい機体を選べた。1時間の幅では、正しい機体が1位になったのは0件。
- 限界(cbonitz が自分で挙げているもの): 動画の音と飛行記録の抜き出しが手に入らず、動画の結果そのものは再現していない。検証の雑音は白色雑音だけで、現実の録音にある風や交通の音、電気のうなりは入っていない。ADS-B に載らない機体や、旋回中に途切れがちな航跡、気圧高度の誤差、天気による音の曲がりは、現実では外れの原因になりうる。
- 対策の効き目(cbonitz): 編集ソフトの低音カットは、周波数ごとに正規化すると効果が残らない。動画の「ハイパスでは防げない」という主張も、正しいと判定している。電話の帯域(300〜3400 Hz)に絞ると基本の音は落ちるが、倍音に同じ曲線が残る。復元できたフレームの割合は、倍音が強い条件で96%、弱い条件で51%だった。背景の音をまるごと置き換えるほうが確実と考えられる(こちらの見立て)。
- 一次情報: 動画は YouTube、検証は cbonitz/doppler-experiments。
